10月31日。
天人がこの国にもたらした文化のひとつによると、今日はハロウィンというお祭りらしい。大体のイベント事には乗っかる主義の此処、歌舞伎町でもそこかしこに珍味な顔をしたかぼちゃのオブジェが鎮座している。

その町中を銀時はあてもなくぶらついていた。町内企画として夕方から行われる仮装行列に神楽と新八の二人を送り出した帰り道である。
行列への参加は大人子供関係なく自由だが、お菓子を貰えるのは子供限定。そう説明された時の神楽の勝ち誇ったような顔は思い返すのも腹立たしい。(別に仮装してまで菓子貰おうとは思っちゃいねーよ!)


どうせ二人がいないのならばどこかの店で一杯やって行こうと角を曲がると、見慣れた人物が見慣れない格好で歩いていた。

「よォ、副長さん。随分と浮かれた格好してんじゃねーの」

その人物――土方の肩に腕を回しながら話しかけると、盛大な舌打ちとともに乱暴に振り払われる。しかもぎろりと睨み付けられるというオマケ付きで、だ。

(おー、怖)

払われた手をさすりながら半歩下がって頭のてっぺんから足の先までを眺めてやると、一転して土方はなんとも居心地の悪そうな顔で視線を逸らした。
ゆるく後ろに流された前髪。ちらりと覗く常より幾分か鋭い犬歯。シャツとベスト、それとスラックスはいつも通りの隊服のようだが、その上に羽織っているのは黒のマント。
その姿は、人間の生き血を糧とする怪物――吸血鬼のソレだったのだ。

「で?マジでどしたの、その格好」
「……とっつぁんの命令なんだよ。今日一日これでいろってな」

再度投げ掛けた疑問には深い溜め息混じりで返ってきた。まぁ当然といえば当然であるが、乗り気ではないらしい。

「んで仮装して見回り中ってわけか」
「もう終わったがな。……こんな格好でうろつくくらいなら屯所で書類整理してた方がまだマシだ」

本当にうんざりとした声音で言うものだから、つい声を上げて笑ってしまった。そのことでますます憮然とする土方に「悪ィ悪ィ」と謝りながら、ふ、とある事を思いつく。

(あ、そうだ)

脳裏に浮かべるのは今日一日だけ使える呪文。

(どんな反応すっかなァ)

当初の予定とはずれてしまったが、楽しい一日にはなりそうだと内心で笑みを浮かべると土方にその呪文を唱えるべく口を開くのだった。




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